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ILAカンファレンス2004
基調講演「ネットワーク社会の今と社会が求める人材について」

シスコシステムズ株式会社 代表取締役社長 黒澤 保樹 氏

社会が必要とする人材とは、社会の中でうまくいっていないところを解決できるような人材である、ということを前提に、ネットワーク社会についてお話します。

今の日本社会で強く求められているのは、国際競争力をつけることです。国際競争力には経済的価値や人間的価値、文化的価値、政治的成熟度など、いろいろな要素があることは当然ですが、今回は経済的価値に焦点を絞ります。

日本の国際競争力強化の鍵

 5つの鍵
国際競争力について考えるとき、日本の場合は5つの鍵があると思います。

1つは教育と人材。優秀な人がいるか、優秀な人を育てるシステムがあるかの問題です。第2はインフラストラクチャの整備です。3番目は生産性です。日本の場合これが一番大きな難問です。少子高齢化社会で労働力が少なくなっている社会で、経済規模を維持成長させるのに必要なことは何か。4つ目は新規ビジネスの創世です。これも日本に特殊な問題です。世界、とくにアジア各国では若い経営者が新規ビジネスを始めるのは普通のことです。が、日本ではまだまだ少なく、これが国際競争力の成熟度を測るパラメーターになります。最後は政策です。国際競争力を蓄えていくための政府の支援があるのかないのか。

 教育の基礎は世界でトップレベル
経済的価値や生活水準を上げていくのに必要なのは、国民の数学と理科の能力ですが、これについては、日本は高いレベルにあります。数学や理科の教育には問題もあるといわれていますが、中学生の数学の能力は世界で5番目、理科は4番目の成績です。人材を育てる教育のシステムは、クリアしていると考えられます。

 ネットワークインフラストラクチャは世界のトップ
日本ではブロードバンドの普及が1600万世帯ぐらいで、世界でもっとも進んでいます。最近では50MBというアクセススピードが得られますし、光ファイバーでは100MBというのもあります。値段も格安です。アメリカの30分の1の値段で、高速のアクセス環境が得られます。

 インフラはあっても、ネットワークを設計する技術者は不足している
ネットワークの技術者の現状をみてみますと、今一番必要とされている、アーキテクチャーを理解できる技術者、つまり、ネットワークをデザインし管理運用設計までをこなせる人材が決定的に不足しています。中国と比較しても3分の1しかいません。世界でナンバーワンのブロードバンド大国なのに、それを有効に活用できるようシステムを構築できる人材が不足しているというのは、深刻な問題です。

 GDPに対してIT投資額の少ない日本は生産性が低い
日本の生産性は低い水準にあります。例えばアメリカを100とすると日本は72です。これは問題です。米国の調査では、生産性とGDP、ITへの投資には相関関係があることが分かっています。

指標はさまざまですが、生産性は一般に年に1~1.5%上がっていきますが、IT技術を導入すると、その数倍、向上させることができます。アメリカでは年に4%ほどの生産性アップに成功しています。

生産性を上げる近道は、仕事のやり方を変えることです。ネットワークを作って、仕事のやり方を変えるようなアプリケーションを作り、それを使って個人の仕事のレベルや会社の仕事のレベルを上げることで、社会の生産性があがっていきます。

2002年の調査ではITを導入している企業と未導入の企業では、生産性の向上に2~3倍の差があることが分かっています。さらに2003年には、 ITを導入した企業のうち、ツールを使って仕事のやり方を変えているところとそうでないところの比較をしてみました。すると4~5倍の違いがあることがわかりました。

 ITへの投資を生産性向上に結びつける人材の不足
アメリカと日本では90年にはIT投資額はほぼ同じでした。人口は日本が半分です。しかし、90年を100とすると、現在ではアメリカが600、日本が250と差が開いてしまいました。この差が生産率向上の差にそのまま跳ね返っています。

IT技術を生産に活かすことは非常に大切なのに、世界一のITインフラを持つ日本がそれを活かせていないのです。IT技術を生産に活かせる人材の不足がその最大の原因です。

 ユビキタス社会で、新規ビジネスを創世し、ビジネスを加速できる人材の不足
日本では、若い起業家が少なく、さまざまな支援がないと新しいビジネスが生まれてこないという状況にあります。そこで、政策的には1円でも株式会社を設立できるとか、産業界では企業の中で能力の社員のアイデアに投資して起業家を育てていこうとか、という動きが出てきています。今後も、こうした面では、新規ビジネスは育ってくると思います。

特に注目されるのは、u-Japan構想です。ユビキタスとかユニバーサルとか言われている、ありとあらゆるものをネットでつなぎ、新しいサービスや新しいコンテンツ、ハード、ソフトを提供しようとする構想で、120兆円ぐらいの経済をつろうとしています。
ここでも直面するのは、そのビジネスを担える人材がいるかどうかの問題です。

 政策によるサポート
インフラ整備からITの利活用へ

政策でもe-Japan戦略があってITインフラを整備してきました。e-Japan戦略Ⅱでは、インフラを使って生産性やサービスを向上させようとしていて、政策的には進んでいます。アプリケーションの開発も進んでいます。例えば、遠隔医療、遠隔診断、遠隔手術は世界屈指の技術です。災害情報、防災、安全、救急医療にもITを駆使する動きが進んでいます。

ネットワークの応用 競争が激化するサービスプロバイダの現状

次に、サービスプロバイダについて見てみます。これはIT社会にとっては重要な要素で、ITやネットワーク技術者を育成するには、この事業が重要な役割を占めます。

そのプロバイダを取り巻く状況は、劇的に変わってきています。まず、規制緩和により、電気通信事業者に加え、電力会社、ヤフーなどの新規参入があります。電話事業の収益は頭落ちとなる一方、データ通信やインターネット事業の売上は上がっています。

自由競争になり実にさまざまなサービスが登場してきました。これまで一般的だったパッケージのサービスから、顧客の望みに応じてカスタマ イズしたサービスが求められ、競争は激しくなる一方です。課金のシステムも変わってきています。従来は使っても使わなくても契約すれば課金されるサービス単位の契約でしたが、契約料は安くしてサービスを利用した時間に応じて課金するシステムに変わってきています。

競争に生き残るために考えなければならないことは、売上を上げることと、コストを下げることです。売上を上げる方法には、新しいサービスを創世することと、消費者への浸透度をあげることの2つがあります。一方、コストを下げる方法は、目的別に構築されてきたネットワークを統合することと、仕事のやり方を変えて効率をあげるという2つに集約されます。

 進むネットワークコンバイン
プロバイダが取り組んでいるのは、ネットワークの統合です。これまで、ネットワークは、例えば電話、ATM、ITなど目的別に作られてきました。しかし、現在では1つのネットワークをコアにしてマルチサービスを行えるようなネットワークへの移行が進んでいます。アプリケーションの統合も進み、同じネットワークへのアクセスでさまざまなサービスが受けられるように変わってきているのです。プロバイダが目指しているのは、そこです。それは、技術的には大きなチャレンジですが、そこでも人材の有無が重要なファクターとなります。

シスコの取り組み

 次世代ネットワーク社会への対応
私たちが考えているのは、次世代のネットワーク社会への対応です。ユビキタス時代のネットワーク社会を実現するにはイノベーションが必要で、私たちは3つのファクターでみています。1つは、より早くより性能のいい技術。2つ目はよりインテリジェントでスマートな技術。3つ目は投資が無駄にならない技術です。折角新技術に投資したのに、新しい技術が登場したらすぐに取り替えるということでは、投資が無駄になります。そうならないように、10年スパンで第1世代、第2世代というように開発していこうという訳です。

そこで、私たちは3つのエリアに重点的に投資しています。1つはルーティング・スイッチング市場、2つ目はサービスプロバイダへの投資、3つ目はアドバンステクノロジー市場です。生産性を向上させるための新しいネットワークの使い方や新しい技術開発に重点投資をしているのです。

技術開発では、IPテレフォニー、セキュリティ、ストレージネットワークとオプティカルネットワーク、ワイヤレス、IPルーティング・スイッチング、それから家庭のネットワークなどの技術エリアに注目しています。

シスコは従来のものよりずっと性能のいいプロセッサーを作っています。パケットのプロセッシングというような特殊な用途に使うものです。また、2ヶ月前に新しいキャリアグレードのルータを発表しました。コンセプトは簡単です。一回電源を入れたら、これを撤去するまではずっと電源を落さない。サービスはずっと続きます。新しいサービスも投入できるし性能も上げられる。システムを止めることなく、ソフトやハードウエアの交換ができます。現在流通しているルータの100倍の性能を持っています。が、それを動かすには、サポートする技術者の存在が不可欠です。

 日本市場をモデルに
技術やサービスを開発するときには、世界で最もインフラが進んでいる国をモデルに作ります。つまり、このルータは日本市場をモデルにして作った最初の製品ということになります。今まではアメリカ市場で売れている製品を日本に持ってきて、それをモデルにカスタマイズして販売するというやりかたでしたが、それを変えました。日本がネットワークのインフラが一番進んだ国なので、その市場で売れる製品を作れば、いずれ他の国々も日本のようにインフラが進んでいくので、グローバルな競争力に繋がると考えられるからです。

 求められる人材
日本に必要とされる技術者は、ネットワークに精通した人、セキュリティに精通した人です。その数が決定的に不足しています。アーキテクチャーを理解した上で、個々の技術に精通した人材が求められています。

サービスの受け手にも人材が不足しています。日本にはプロジェクトマネージャが非常に少ないのです。企業のIT戦略や企画、調達などをプログラムできる人材が求められています。